良きかな。

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* 「見たまえ、神原君。これはまた、 そうそう見られぬ素晴らしさではないか」 「……そうか?」 「そうだとも! この張り、この形。 どこをとっても文句のつけようがない。 ああ、過去の僕は一体どこに眼をつけていたというのだ、こんなにも素晴らしい物が身近にあったとは!」 ──さて。どの辺りから話そうか。 お前は劇団にでも入ってたっけか? と問いたくなるほど明瞭な滑舌と台詞回しを繰り広げているのが俺ではない、という点については、 恐らく説明するまでもないだろう。 神原(かんばら) と呼ばれて言葉少なに応じている方が俺だ。 寡黙な男を気取れるほど頑丈なハートは持っちゃいないが、こいつがこれを言い出す時、 俺には大抵喋ることなどありはしない。 「ああ、見れば見るほど良いぞ。──神原君、 君ももっと近くに寄って見てみたまえ、 そうすればわかる」 「……いや……多分、俺にはわかんねぇわ」 口端辺りにひきつっている感覚があるわけだが、 これはまぁいつものことだ。 だからといって、俺を薄情と決めつけるのは早計だとも言っておく。 こいつの賛辞に心から共感できるという人間には、 未だお目にかかったことがないんだからな。 俺が立って俯瞰し、武智が腰痛を発症しそうなほど中腰になって見つめている物。 それを誰にでもわかるよう説明するのなら、 こうとしか表現しようがない。 カラッカラに乾きかけた、盆栽だ。
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