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太く湾曲した幹、いくつかに分岐した枝、
辛うじて緑色の葉から大振りの鉢に収まる土まで、
どこを見ても水気を全く感じられない。
眺めていると、
鞄からペットボトルを取り出して中の水を上から振りかけ、ついでに俺も少し飲んでおこうかという気分になってくる。
盆栽のことは知らないが、あぁこりゃだめだな、
とは一目見た瞬間にわかってしまった。
もう枯れてるな、というよりは、
もう諦められてるな、という意味合いだ。
それの周りには大きさや種類こそ違えど複数の盆栽が並べられていたが、
それらの方は程度の差こそあれ “生きた植物” の外観がしっかり保たれている。
大方、この鉢は何かしら持ち主の気にくわない現象でも背負い込んで、世話を放棄されたのだ。
無精な盆栽家もいたものだとは思うが、
俺にはそれ以上の感慨もない。
「おい武智、もういいから、そろそろ行くぞ。
今日ぐらい遅刻はやめとけって。
それもそんな枯れかけの鉢でさぁ」
上から石膏をかけたらおとなしくオブジェになってくれそうなほど微動だにしない武智の背中に一歩近付き、俺はしびれを切らして促した。
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