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日本人のど真ん中を行くような中肉中背を、
眩しいほどしわのない白シャツと定規で引いたかというほど直線的な黒ズボンで固めている。
おまけにこいつの通学鞄はいわゆる “昔ながら” な形で、
ざらついた白い帆布を用いてたすき掛け、
厚みのある四角形が腰の左側辺りに収まっているときたもんだ。
夏服の今はまだ辛うじて現実の枠内に収まってくれているが、もう少し月が進んで秋にもなると、俺なんかは懲りずに目をしばたたく羽目になる。
黒い学ランと武智良人は切っても切れないベストパートナーだ。
さて、その浮き世離れした制服武智と、
枯れかけ盆栽の御老が向き合って、
無言のまま数秒がすぎた。
おい武智。
普通は訪問者の方が一秒以内に何か言うべきだろう?
「おはようございます」
俺がそう思った途端、武智が声を発した。
舞台の上に立っているかというような笑顔と、腹からの声だ。至近距離でそれを聞いた御老の顔はぴくりとも動かない。
そして。
「あなたはなぜあの盆栽の手入れを放棄したのです。
あれは実に素晴らしい、
そうそう入手できる類の物ではありますまい。
他の物事にかかっている時間があるならあれを真っ先に優先すべきだ。
そう、手が回らないというのなら周囲にある他の鉢は全て処分してしまうがいいでしょう!」
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