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広島市。
午後八時を過ぎ、月が市内を照らしている。
だが、新島組による破壊は、街の一部にライフラインの停止をもたらしていた。
住宅街を焼き払い、そこを大麻とケシの畑にしてしまったのだ。当然、そこに行くはずだった電気、ガス、水道は、停止させられている。
今、ライフラインがまともに通っているのは、新島組が抑えた場所だけだ。それ以外は、月明かりだけが頼りの闇に包まれていた。
広島市内には、六本の川が流れている。
東から、猿猴川、京橋川、元安川、本川、天満川、そして洪水対策の為に人工的に作られた太田川放水路。
この中で、本川と元安川は平和公園のすぐ北……相生橋というT字の橋があるポイントで分岐するのだが……。
「こちら、ドリルサージェント」
川の分岐点から、まだ新しい濡れた足跡が続いている。
平和公園内「平和の時計塔」、そのすぐ近くの植え込みの中に彼はいた。
「広島市内への潜入に成功した」
[了解です。そちらの状況はどうですか?]
「街の灯りが消えている。どうやら奴らが押さえている場所以外は電気が停止しているらしい」
通信の相手は、零治だ。
[今、周辺に灯りのある建物は見えますか?]
「……リーガロイヤルホテルの高層階、広島城周辺、後は……アーバンビュータワーの高層階、ここから確認できるのは以上だ」
[広島城……? そんな所を、どうして]
「さぁ……? 俺には連中の考えている事は解らん。だが、事実だ」
零治の質問に答える形で、彼は情報を伝えるが──
背後にある相生橋から音が聞こえる事に気付くと、彼は振り向いて双眼鏡を覗きこむ。
「市内電車だ、移動方向は橋に沿って西。奴らの巡回が乗っているのが見える。武装は──ヘリカルマガジンが付いている、北朝鮮製の八八式小銃のようだ」
零治の隣には、現実空間で活動するあいちゃんが戻ってきている。
あいちゃんは、伝えられた情報を元にAKー47を小口径化した銃・AK-74のコピー品と言える銃の姿をモニターに映し出していた。
「隣の奴は、スパイク銃剣付き──中国製の五六式だな。さらに隣はMac11の二挺持ちか。俺の一見では、かき集めた武器を雑多に使っているという印象を受ける」
市内電車は、相生橋を西へ向かって渡っていく……。
やがて、それは橋を渡り終え、建物の影へと姿を消した。
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