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その直後、ジャックの──
海外ドラマでも良く聞く、HAHAHA!という冗談めかした笑い声が無線に響いた。
「頼りにしてるぜ、元 "イギリス陸軍第二十二SAS連隊のマードック中尉" 」
[お前も、元 "フランス第二外人落下傘連隊のアカバ曹長" だろ。アフガンで見せてくれたガッツに期待してるぜ]
「尉官には成り損なったがな──」
二人はふっと軽く笑い合うと、互いに目の前の事へ集中する。
平和公園の敷地をぐるりと一周しながら、ドリルサージェントは周りの様子を探っていた。
まずは、安全確保というわけである。
「平和公園敷地内に人影は無し。資料館はそのまま放置されているようだ、防犯カメラも動いている気配が無い……」
暗視装置が付いた双眼鏡。
それが映し出す深い緑色に染まった視界は、資料館から東の方向へと向いた後、元安川の対岸にある原爆ドームの方へと向いていく。
双眼鏡から目を外せば、満月の月明かりと、新島組が占拠している建物の僅かな灯りしかない状況だ。
「まずは……灯りが確認できる広島城へと向かう」
ドリルサージェント──JCMDFのメンバーからは教官、そして海外ではタックと呼ばれているこの人物。
ジジイこと赤葉 義辰の息子、当然苗字は赤葉だ。
では、彼の本名を語っておこう。彼の名は、赤葉 武義(あかば たけよし)。
奇しくも、隆義とは漢字と平仮名か行の一文字違いの名である。
なので、ややこしさを避ける便宜上、ここでは教官と表記しておこう。
教官は植え込みに沿って、公園の北にある平和の時計塔から、元安川に沿って「原爆の子の像」の前までやってくる。
左手には紙屋町の繁華街に続く橋、目の前には被爆建物であるレストハウスが見える。
先日はごうごうと音をたてていた川だが、今日は水量こそ普段よりも多いものの、遊覧船の通行ができる程度には落ち着いているようだ。
「……!」
北から大きなエンジン音が耳に入り、水を掻きわける音がしたと思った瞬間、教官は再び茂みに身を隠す。
直後、川の両岸をサーチライトで照らしながら進むボートの姿が見えていた。
それは音の割にゆっくりとした動きで川を南下し、目の前を通り過ぎていく……。
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