愛着

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明日、なんて。 なんの気なしの言葉がどれだけ雪の心を弾ませるか、彼は分かっているのだろうか。 “好き”より恥ずかしい言葉を躊躇わない彼のことだ。 きっと深くは考えていない、正真正銘、“何の気なし”なんだろう。 「……雪」 「なんですか」 してやられてばかりだと、雪の声が拗ねる。 聞こえてくる幸の穏やかな心音に目を伏せ、身動きの取れない状況だというのに安心しきっている自身が可笑しいと、内心苦笑いしていた雪は、 「……、……」 ため息よりか細い音で紡がれた言葉と、戯れに耳に触れた唇の湿った音に、びくっと身を震わせた。 不意のそれに、意味を理解するまで、たっぷり15秒はかかっただろうか。かあぁっと、体内の血が沸騰したかのように体が熱くなる。
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