愛着

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「……ありがとうございます」 あの夜、声をかけてくれたのが貴方で良かった。 小さな呟きに乗せた感謝に、幸が不思議そうに眉を寄せる。雪は少し振り返り、桃色の目尻をふわりと和らげた。 「好きです、黒瀬さん」 「……知ってる」 「そこは“俺も”って言うとこですよ」 「今日は終わりだって言っただろ」 「……明日、楽しみにしてますからね」 雪の悪戯っぽい笑顔が、幸せだと語るように蕩ける。 怖くないとは言えないし、当然まだ、無形の言葉を信用なんて出来ない。可能性は、ゼロにはならない。 それでもきっと、言ってしまうのだろう。 「……勘弁してくれ」 幼い顔を見るたび、子供らしく笑いかけられるたび。 膨れ上がる感情が溢れ出して、大嫌いな言葉を吐いてしまう気がする。
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