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毎日きれいに掃除されているのか、屋内は比較的きれいだったが、とにかく物がないのだ。
今の時代ならばどの家庭にもあるはずのテレビやネットはもとより、日用品すらほとんどない。
つまり、まるで生活感がないのだ。
「私の家に上がるお客さんってみんな、物がないって騒ぐの。そうでもないのにね」
「……いや、無さすぎだと思うんですけど」
「あなたもそういうの?失礼だね。過ぎたことは言うもんじゃないよ?」
「過ぎてますか?」
「ええ、とても。身の程をわきまえた方がいいわ。ああそう」
そんなことを言いながらも険悪には扱われていないようで、彼女はただ淡々と言葉を返しているようだった。
彼女の案内で客間と呼ばれている部屋に通される。
その場所も特徴はあまりない。
しいて言うなら机があり、掛け軸が一つあった。
そこで彼女は「少し待ってて」と笑顔で言う。
「こんな質素な所でもお茶ぐらいあるから」
言い残して彼女は客間を出る。
独りになった部屋で、俺は掛け軸を見ていた。
その掛け軸に書いてあったのは女の人と、そして赤鬼……。
見るからに赤鬼が女の人を襲っているように見える。かなり昔に描かれたのであろうその絵は随所が擦り切れ、虫の餌食になったらしい小さな穴が点々と見えた。
しかし……何かがおかしい。
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