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ジジイは微笑を浮かべながら私に丁寧な口調で尋ねる。
「ええ、そうですが?」
「あのー、これなんですが‥‥」
ジジイは鼠色の小汚いスーツの懐から白い鳩を出す。白いと言っても羽毛が汚れで多少黄ばんでいる。 汚いジジイが小汚い鳩を赤の他人の家の玄関前で赤の他人に見せている。異様な絵面である。
「実はですねえ、この鳩なんですがね。あちらの大きな道路ございますでしょ?」ジジイは近くにある街道と国道の交差点の方を指差す。
「ああ。彩乃技交差点ですか?」
「そうですそうです、彩乃技交差点。あちらの街道から東京方面へ左折する手前の路側帯に、この鳩が横たわってましてね。私、普段公園に住んでますのでね、分かるんです。これは野鳩では無いって。それで、もしかしたらこの辺で飼われている方の鳩ではないかと思いましてお尋ねしているんですが」
私はジジイに片手で瑣末に持たれる鳩を見ながら答える。
「いや、僕は飼ってませんけども」
「そうですか。分かりました。夜分遅くご迷惑おかけしました」
ジジイは深々と頭を下げ、去ろうとする。
それだけのためにわざわざ来たのか?
何だかわからないが、私は何か物足りなさを感じ、もう少しジジイとコミュニケーションが取りたくなる。
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