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「この鳩の飼い主を探してるんですか?」
「ええ、そうです。こちらのお宅で632軒目です」
「え!?そんなに廻ってるんですか?」
「ええ。この後、上の階へ行きます」
「はあ‥‥」
呆気にとられて出る言葉が無い。
「そうだ。この辺りで鳩を飼っている人は知りませんか?」
「いやー、全く知らないですね」
「そうですか。次は401だな」
ジジイは、スーツのポケットからヨレヨレのメモ帳と馬券場にあるような小さなペンを出して私の部屋番号が書いてある紙に×を付けている。何となくこれ以上このジジイに関わるのは危うい気がしてくる。
そろそろ閉めよう。
「ご苦労様です。くれぐれも無理せずに頑張ってください」
「ありがとうございます」
ジジイは穏やかな笑みを浮かべ一礼する。
私も一礼して、ゆっくりとドアを閉める。
閉めた瞬間、堪えていた冷や汗がドッと出たような感覚に陥る。
あの白い鳩は、間違いなく私の鳩だ。
数年間、伝書鳩として養成し、長年の恨みを持つ或る人物の家にピンポイントで降り立ち、数分後には爆発するように何度も何度も訓練をして、ようやく今日の朝、最新で最小の時限爆破装置を鳩の背中の部分に装着し飛ばしたのである。どうやら計画は大失敗に終わったようである。
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