天井裏の俺

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 父親が、子供の一人の頭をーーバットで叩き潰したからだ。  ごしゃ!  そして、まだ何が起こったかわからないもう一人の子供を、今度は横から。  めき!  母親が、その腕にすがりつくが何の制止にもならない。  父親は、ニコニコしながら「作業」を続ける。  あかい飛沫が、部屋中に飛び散ってさあ。  のぞいている、俺のところまで飛んできそうだ。臭ってきそうだ。湯気のたつ・・・××××の臭いが、さ。  そして最後に父親は、居間で首を吊るんだ。  ニコニコしながら、な。  え?   なんで知っているかって?  この家は廃屋だ。  本来、誰も住んでいない。長い長いあいだ、放置された廃屋なんだ。  昼間、下に降りてみなよ。生活感はもちろん、そもそも家具もなんにもない。なあんにも。何一つ。  そして。  毎晩、この時間になると明かりがついて、繰り返されるのさ。  血みどろの惨劇が。  だから知ってる。  父親がぶらーんと、ぶらさがると・・・明かりは消えちまう。あとは墨みたいな闇なのさ。  俺が見ているのは、何なんだろう。  もしかしたら、ずっと昔に・・・ここで起こったことなのかもしれない。  だったら。それならば。  連中は幽霊? 幽霊かって?  ああ。そんなことはどうでもいい。ほんとうに、どうだっていい。  大事なのは、ここには俺が求めるものが全部あるってことだ。  求めて得られなかった、一家団欒も。  うらやましい反面、憎くてたまらないそのーー崩壊の一部始終も。  それを、毎晩見ることができるんだ。  それも、これ以上はない特等席でな。  だからーー俺は、ここから離れられないのさ。  俺もとっくに幽霊みたいなもんだ。  いや、もしかしたら。自分では気がついていないだけで。ほんとうに死んでいるのかもしれない。  この家に、とり憑いているのかもしれない。  何て言ったかな。地縛霊? こびりついた穢れ?  ああ。呼び名なんてーーどうでもいい。まったくもって、どうでもいいことさね。      
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