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 そんな雑談をしていると、やがて二人の料理が運ばれてきた。  周りは百鬼夜行の様相を呈していたが、もう諦めの境地に至っている小柄な男は無視を決め込み、大柄な男は結局最後まで見向きもしなかった。  出てきた料理に手を合わせ、二人は言葉もなくスプーンを手に取る。  待ちに待った夕飯だ。それ以上一瞬たりとも待つことなく、二人は料理に手を伸ばした。  一口。  二口。  そのまま二人は黙々と口を動かし、それぞれの料理を完食した。  その間、一切の言葉もない。  そして会話もないままに会計をすまし、店を出る。  結局その日は何も言葉を交わさないまま、二人は別れた。  小柄な男のツッコミが、遠い昔に思えるほどの、それは静かな家路だった。   後に、二人は同僚にその店のことを聞かれることになる。  隠れた名店。  凝った意匠に創意工夫。  客はモンスターだらけのレストラン。  しかして、そのお味のほどはというと、「「うん。それが……」」二人は声をそろえて言ったそうだ。 「「料理は『人並み(ふつう)』だったんだ」」  と、微妙な顔で言ったそうだ。
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