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「実はそうなんだ。ちょうどいいところで会った。ずいぶん歩き回ったんだがてんで見つからないんだ。よかったら案内してはくれまいか?」 「ええ。ええ。お安い御用ですとも。何を隠そう私が出てきたこここそが、その名店なのですよ」  言われて見れば、裏口の扉にしては立派な作りをしている。ノブの装飾もかなり凝ったつくりをしていた。  しかし、これを見て二人はいぶかしんだ。 「なんだって? こんな飾りも何もない扉がか?」 「看板だってないし、ネオンだって灯っていないじゃないですか」 「そこはそれ。隠れた名店とは、えてして自己主張など必要としないものなのです。出す料理の味こそ看板、食べた客の声こそ宣伝というわけです」  得意げにいう狐顔の男の言葉には、説得力があった。  彼の口がうまいからか、そう言われると趣深い店に見えてくるから不思議である。  こんな人気のない所に店を出すなど、きっとこだわりのある店主なのだろう。さっきまで気づかなかったが、うまそうな料理の匂いだってするではないか。  こうして二人は狐顔の男に礼を言ってから店に入った。扉を開けると階段があって、一つ地下へと続いており、いよいよ隠れた名店の風格がある。階段を降りると、もう一つ扉があって、ここには店の名前が刻まれていた。  Restaurant  西洋料理店  Wildcat house  山猫軒
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