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「ま。現実はこんなところだろう」
「いやいや。センスのいい店だと思うよ」
話をしながら、二人はカウンター席を選んだ。テーブルにはちらほらと客がいたし、男通しで顔を突き合わせる趣味もない。
大柄の男は、待ってましたとばかりにそこにあったメニューに手を伸ばした。
「ふむふむ。カレーにピラフにエビフライと、だいたいのメニューは普通の洋食店と同じか。なになに。お客様のご注文にも柔軟に対応いたしますだってよ。やっぱり凝ってるな」
「そんなにかぶりつきで見なくてもメニューの内容は変わらないよ?」
横目でそんな相棒を見ながらも、店の内装をまた見渡す。
後ろからウェイターらしき男が声をかけてきたので、小柄な男が応対した。
「いらっしゃいませお客さま。お水をお持ちしました」
「ああ、はいはい……えっ!」
「どうかしましたかお客様?」
「いやいや。なんでもないよ」
「それでは、ご注文がお決まりになりましたら、お声をおかけください」
そうしてウェイターが厨房に消えてから、小柄な男は急いで相棒の肩をバシバシたたいた。
「おい! 今の見たか!?」
「見てないけど、どうしたんだよ?」
「さっきのウェイター。狼男だったんだよ! 狼が、給仕服を着てたんだ!」
「なるほど。そいつはこの店の趣向だな。『注文の多い料理店』だと、店側は人を食う化け物だった。だから、店員はみんなモンスターの姿で接客してんだろう。その狼の顔だって、かぶり物さ」
「で、でもやたらリアルだったよ? 口のところも動いていたし」
「そこも隠れた名店の所以ってとこだろう。創意工夫だ」
「ううむ。言われてみたら、そんな気がしてきた」
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