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こっちの話を聞かないままに、またメニューに没入する相棒に小柄な男が絶望していると、二人の間からニュッと手が伸ばされた。そしてその手は二人の間にあったタバコの灰皿をつかむ。小柄な男が視線を向けると、そこには着流しを着た中年男性が立っていた。
「すまないが、使わないなら灰皿をもらってもいいかね? どうやらワシの席に置き忘れているようでね」
「どうぞご勝手に……え!」
「おや? やはり、無礼だったかな?」
「全然そんなことないですよ! どうぞどうぞ!」
「ハハハ。元気がいいな」
後ろに去っていく中年男を見ながら、小柄な男は三度相棒の肩をバシバシたたいた。
「おい! 今の見たか!?」
「だから人懐っこいオッサンがどうかしたのかよ? ちらっと見たけど、普通のオッサンだったぞ?」
「側面から見たらな!? だけど灰皿を乗せてた手が、布みたいに薄かったんだよ!」
「あんまり人の身体的特徴を言うものじゃないぜ。影が薄い人もいれば、頭の毛が薄い人だっているんだ。全身うすっぺらい人間もいるだろうさ」
「だから、そういうレベルじゃないんだよ! ていうか、僕達の肩と肩のすきまとか腕一本分も絶対ないだろ!? 妖怪いったんもめんみたいだった!」
「きっと、その人はすげーお腹がすいてたんだ。お腹と背中がくっつくほどにな。だからペラペラなんだ。なるほど、あえてお腹を減らしてから来店するとは、よほど料理に期待しているんだな」
「そんなわけあるかい!」
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