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小柄な男が生返事に対してキレていると、隣のカウンターに座る者がいた。
振り向くと、二人よりも数倍値が張りそうなスーツを着た、初老の紳士が座っていた。灰がかかった髪を後ろになでつけており、風貌は優しげだがどこか骨を思わせるような肌の白さを持つ男性だった。
さすがジェントルマンらしく、目が合うと微笑んで挨拶をしてくれる。
「お隣、失礼しますよ。お若い方」
「ええ。どうぞどうぞ……え!」
「なにか、私の顔についてますかな?」
「いえいえいえいえいえ。何も何もに何も何も!」
「左様ですか?」
葉巻に火をつけている初老の男性に背を向け、小柄な男は急ぎつつも小声で相棒に耳打ちをした。
「おい! 今の見たか!?」
「見てねーってば。隣のかっこいいジェントルマンがどうかしたのかよ?」
「それが笑ったときに見えた口に生えていた牙がすごかったんだよ! 犬歯がすごいとがってる! どう見ても吸血鬼だよ! 肩にコウモリとかとまってるし!」
「お前が人を見た目で判断する奴だとは思わなかったよ。人間は見た目じゃなく心だぜ?」
「言ってることはまともだけれども!」
すると、後ろで老紳士が注文をする声がして「私はいつものを。いつもの『人の生き血』をね」それを聞いた小柄な男の顔からサーッと血の気が引く音がした。
「おい! 今の聞いたよな!?」
「だから何を? 隣の人の注文がどうかしたのか?」
「だって『人の生き血』を注文してたんだぞ。『人の生き血』を! この店、やっぱりやばいんじゃないのか!」
「聞き間違いだって。きっとジンベースのカクテルだ。『ジントニキッチ』とか」
などと話していると、運ばれてきた飲み物を初老の紳士が口にして「ッブーーーー! なんだこれは! 『ジントニキッチ』じゃないか! 私が注文したのは『人の生き血』だ! 『ジントニキッチ』じゃなくて『人の生き血』だ! バカモンめ!」とウェイターを罵倒していた。
「ほら今のは聞いたな!? 『ジントニキッチ』じゃなく『人の生き血』だって言ってただろ!」
「あーはいはい。そーですねー」
「ちゃんと聞けや!」
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