三章  呼ぶ声と_1

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 そこで通話が切れた。旅行鞄に入れたはずの充電器を出そうと手を伸ばして漁ると、見慣れない袋が入っているのに気付く。結ばれている持ち手を解いて箱を取り出した。 「なまやつはし……」  そう言えば自分で土産を買う余裕もないままとんぼ返りしてきた。いつの間に仕込まれたのか。  定番のニッキと抹茶のそれをラックへ置こうとした時、ひらりと膝の上に紙が落ちた。袋と一緒に入っていたらしい。 ――草町くんへ   体調はいかがかな?   無理せず、固形物が食べられる様になったら小野くんと仲良く分けてください。   追伸   合宿で共に創作活動に励めず残念ですが、草町くんの恋歌を楽しみにしています。   有川 「………………」  宿題って、これのことか……。  微熱の残る体調不良のせいではなく目眩がして後ろへ倒れ込む。脆弱な自分の体をここまで恨んだのは初めてだ。  枕に顔を埋めて、具体的な数の指定がないことへの恐怖から必死に目を逸らした。
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