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三章 呼ぶ声と_2
昼過ぎからのアルバイトを終えて駅へ向かう途中、ポケットに入れた携帯電話が震えているのに気付いた。ビルの影に入って立ち止まる。着信は文月君からだった。
「もしもし」
『もっしもーし!いちおーは元気そうっすね!』
「?まあ、元気は元気だが」
唐突な台詞に首をかしげる。まるで見ているかのような口ぶりだ。電話の向こう側で笑い声が跳ねる。
『先パイ、先パイ。右見て、そのまま上~』
「?……あ」
『お久しぶりっす。しばらく見ない間に随分サッパリしたっすね』
文月君の誘導に従って視線を滑らせると、歩道橋の上で手を振る影があった。今日も笑顔と前髪を頭頂部でまとめて曝された額が眩しい。
通話を切って階段を上る。十日ぶりに会う後輩は大分日に焼けたように見えた。
「合宿、お疲れ様。メールありがとう」
「うっす!……」
笑って応えてくれた文月君が、ふと僕の顔を覗き込んで数度瞬く。顔に何か付いているだろうか。
「文月君?」
「……へいニーチャン、ちょっと茶ぁしばかへん?」
「う、うん……?」
「あ、コレおみやげっす。好きなのお一つどーぞ」
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