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相談がある、といって荻田がわざわざ休みの日にうちに来て、いきなりこういったのだ。ソファで向かい合って座る僕達の間に、一瞬沈黙が訪れた。シャワシャワとやかましく鳴いている蝉の声が、しばしリビングを占拠した。
「へ?」
僕は麦茶の入ったグラスを片手に、ひとまず怪訝な顔をして見せた。
荻田と僕は、高校時代からの腐れ縁で、共に野球部に所属していた。ポジションはお互い外野で、打力もどっこい。打撃センスというものに不自由していた僕達は、常に八番の座を争うライバルだった。二人で仲良くベンチを暖めていた時期も当然あった。
そんな二人が、しかも野球を離れて十年以上経っているというのに野球チームの監督とコーチをする。
なんて無謀なアイデアだろう。
「公式戦で、ろくすっぽ結果も残してこなかった僕達がかい?」
「それは確かにその通りだけどな」
そう言いながら、荻田は一枚の写真を取り出して見せた。
「これ、覚えているか?」
それは、この間見たばかりの集合写真だった。
「懐かしいな」
「三年生が抜けてさ、俺達の世代は不作だなんていわれて」
「そうそう、あの時のキャプテンが怒ったんだよ」
今でもそのときの事は忘れられない。
温厚な笑顔に隠されていた彼の熱い血の滾りを、僕達は肌で感じた。平和主義者の仮面の下から現れた牙を見て、ある種の感動を覚えた記憶がある。
「必死に練習したもんな。先輩達を見返すためだけに」
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