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「いや、荻田のやつが少年野球のチームを作りたいって言うからさ」
「この写真で説得していたところだよ」
そう言って荻田が家内に見せたのは、件の集合写真だ。もちろん彼女も写っている。
「あら、懐かしい」
そう言いながら、彼女は僕の隣に腰を下ろした。写真を手に取った彼女は、懐かしそうに微笑んだ。
「で、もう一度野球に触れてみたいと思わないか、という話だ」
荻田の言葉に、心が揺れるのが分かった。だけど僕は未だ悩んでいた。上手く教えられる自信も無かったし、仕事で休日出勤もある。おいそれと引き受けて、責任の取れない事態になることは嫌だった。
「うーん、でもなぁ」
自分でも歯がゆくなるほどに、はっきりとした言葉が出てこない。
「お前だって、覚えているはずだぞ、あのときのしんどかったけど楽しかった事を。みんなで一丸となって、成し得なかった事を成し遂げた達成感を。野球が本当に好きだった自分を」
ソファから立ち上がり、声高に演説する荻田。家内も僕の隣でうんうんと頷いている。荻田の言うことは間違いない。野球は今でも好きだ。だけど……。
「やったら?」
迷う僕の背中を押したのは彼女だ。
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