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「野球が好きなら大丈夫よ。私も協力するわよ」
「お、マネージャーの力を借りれるのか、こいつはますますありがたい話だ」
ニコニコと笑いながら話を進めていく二人に対して、僕は悩んだままに結局、明確な答えは出せなかった。
「考えておいてくれよ。いい返事を待ってる」
そう言って、荻田はひとまず帰っていった。
その夜、僕は缶ビールを飲みながらリビングのソファに体を預け、もう一度あの夏を思い返していた。
エースだったキャプテンは灼熱のマウンドで阿修羅のごとき力投を見せた。その球数は、実に一四三球。圧巻の完投劇を締めくくる外野フライは、確か荻田が取ったのだった。
最後のアウトを取った瞬間、ベンチも、それから僕達も弾けたように跳ね上がって叫んだ。それはもう、甲子園で勝ったかのような喜びようで、みんな笑顔で、掴み取った勝利を純粋に喜んでいた。
あんな溌剌とした時代が自分にあったなんて、僕が一番信じられない。
「あなた」
息子を寝かしつけた妻がリビングに戻ってきた。
「まだ、迷っているの?」
「……まあね」
僕の返事に軽いため息をつき、それから向かいのソファに腰を下ろした。
「野球、好きなくせに」
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