三章  呼ぶ声と_3

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 僕に向けられる指先と、誘う口元、一瞬揺れた瞳。似ても似つかないのに、今日の崇子さんにダブって見える。手を伸ばしても届かないと知っている、切なさを孕んだ声がどうしようもなく僕の呼吸の邪魔をする。  コンビニに行く時も、通学路を歩く時も、デートみたいだと笑ったのは一月も前だ。みたい、ではなくデートをしようという彼に、いつもの無邪気さは見えない。  小野と崇子さんのデートで何か違うものがあるのか、知りたい。  失礼な話だが、崇子さんの隣を歩いている時に何度も小野ならどうしただろうと思った。比較対象があれば、小野に対する自分の気持ちがどんなものなのか判るかもしれない。  虚勢を張って微笑んでいるくせに、指先はかすかに震えていた。彼のためではなく自分のために手を伸ばすことを躊躇ったのは数瞬で、触れる熱い手に心の中で謝った。  僕の心中を知ってか知らずか、小野は笑みを深くして軽く指先を絡めて僕の手を引く。帰ったばかりの自室を後にして、再び夏の余熱の中へ戻った。 「行きたい所があるんだけど、いい?」  駐輪場でヘルメットを受け取りながら頷く。普段の行動範囲が大学と図書館と行きつけのカフェくらいしかない僕に、行きたい所を聞かれても黙り込むしかない。日の暮れた時間からでも行ける場所となれば尚更だ。 「つかまって」     
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