三章  呼ぶ声と_3

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 いつものようにセッティングされた座布団の上に座って、いつものように発車にそなえていると小野から声がかかった。 「つかまってるぞ?」 「そうじゃなくて、腰」 「腰?」 「デート、だろ?……ちょっと暑いかもしんないけど」 「……ん」  一般的なデートでスクーターに二人乗りなら、確かに腰に手を回すことが多いだろう。そんなものかと、腕を伸ばして小野の腹の辺りで自身の指を握る。その状態で体を離しておくのは地味に辛くて、つかまれと言ったのは小野だしと肩に頬を寄せた。  エンジンを吹かす音を、普段は滅多にしないのに大きく響かせてからスクーターが動き出す。 「何処に行くんだ?」  いつもより近くにある小野の顔に、いつもより少しだけ小さい声をかけた。 「ひーみーつー!」  小野の声はいつもより少しだけ大きかった。普段、スクーターの荷台から見えるのは景色とヘルメットを被った後頭部、それから背中だが、今日はほとんど景色しか見えない。視界の端で栗色が踊って、ヘルメットからはみ出た小野の髪が風に遊ばれているのに気付く。  会話もなくただ栗色を眺めていると、赤信号に従ってスクーターを止めた小野が振り返った。思っていたよりずっと近い所に顔があって少し驚く。 「こ、コンビニ、寄る?」 「……うん」     
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