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「杉山さん、よろしければ今夜、食事に行きませんか?」
式の一週間前。彼は最終の打ち合わせにやはり一人でやって来た。彼の誘いに二つ返事で応えて私達は夜の街へと繰り出した。彼は彼女と初めて食事をしたというイタリアンレストランにわざわざ予約まで取ってくれていた。
「杉山さんが担当プランナーで本当に良かった。僕達だけではこんな短期間で準備なんて出来なかったです」
あまり酒は強くは無いのか、彼はワインでほんのりと頬を染めて嬉しそうに言った。とはいえ、新婦の明確な要望は最後まで聞き出すことも出来ず、途中からは新婦両親の異様な横槍に何とか彼等らしい式をと苦心したのも否めない。それを分かっているからこそ、彼は私を労うためにこのような場を用意してくださったのだろう。
なんて優しい人なのだ。余計に彼が今週末には既婚者になるのが悔やまれる。
二軒目は私の行きつけのバーへと連れていった。彼は、「杉山さんの雰囲気によく似合ったバーですね」と目を細めた。
「高橋様の思う私の雰囲気とはどのような?」
「初めて会ったときから凛とした大人の男の魅力に溢れた人だと感じました。身のこなしもスマートで僕の話を親身になって聞いてくれる姿勢は、とても憧れます。それに貴方の声は心地良い。僕も杉山さんのような余裕のある男になりたいな」
彼の台詞に気分が良くなって、ウイスキーのロックがやけに旨かった。
「どうして貴方が独身なのか、それが僕には謎です」
「……私は女性には冷たいんですよ」
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