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だが、稀にその理を逸脱した者が現れることもまた、人の世の理でもある。
「~~~~~♪」
軽快な鼻唄は心躍るリズムを刻んでいく。
吹き抜ける風が鼻歌を歌う人物の衣服を勢い良くはためかせる。
「お星さま、お星さま。私は大空を飛びたいのです」
漆黒の夜空からやや明るみが見える明け方に近い空に向けて願いを口にするのは一人の少女。長い髪が風になびく上品な少女を包み込むのは強風。
「籠の中の鳥は空を飛べるでしょうか?」
少女の視界にはほぼ真っ暗闇の世界が広がっている。ただ、少しだけ朝日が昇りかけていることから漆黒というほど暗くはない。
うっすらと明るさが見える世界は絶景。広がる自然そのものの大地は少女にとって新鮮なものではなく、いつも目にしてきた光景。ただ、今日は普段より暗いというだけ。
「お星さま、お星さま。私は自由へと羽ばたきたいのです」
そう言う少女の目には星が一つも見えていない。それは明け方へと移り変わっているからではなく、この世界ではもう星を見ることは叶わなくなっていた。故に星は文献上に残された幻想の一つであり、人々が歴史の中で失った景色の一つである。
「飛んだことのない鳥は空を飛べるでしょうか?」
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