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その洞窟は魔王の支配下にあるダンジョンの一つ。しかしそうはいってもそこは大したダンジョンでもない。階層は僅か五階、広さもそれほどなく、出現するモンスターも人々が恐れおののくレベルの者は一匹たりともいない。さらに世界最大の大都市アレクサンドリアから徒歩で行ける場所にある。そのため、そのダンジョンは魔王支配下のダンジョンと呼ばれながらも、人間の研修訓練用のダンジョン程度にしか扱われていない。
そんなダンジョンの六階層目、通常行き来できる階層のさらに下、そのダンジョンを管理する経営者が様々な仕事をこなす階層がもう一階層分存在した。その階層のことは人々には知られておらず、人々に知られてもいけない。
そんな存在するが存在していないことになっている階層は上階層と同じく洞窟のような作りになっている。しかし上階層のように人の出入りは無い、いや、出入り口すらない。そして戦闘も起こらないためモンスターは一体も存在せず、狭い洞窟の空間はまるで居住空間の部屋のように片隅に本棚が並べられ、ベッドもあれば仕事用のデスクもあった。
「もう少し安くならないか?」
その居住空間となっている洞窟の部屋にある仕事用のデスクに座る一人の青年の姿があった。何やらデスクの上に置かれた水晶玉に映る相手と話をしている。
どこにでもいそうな人間にしか見えない青年。細身で引き締まった体に肩まである長い黒髪、クールさをうかがわせる整った顔立ちは人間社会の中でも少々目を引く存在となりそうだ。動きやすさを重視した旅人に近いスタイルで青年はデスクの椅子に腰かけ、水晶玉に映る交渉相手をまっすぐに見据えている。
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