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少女が眉をひそめて父親にぼやく。父親の昔話は父親の過去の武勇伝でもある。その武勇伝を耳にしている限り、少女にとって自らの父親が何よりも一番だと感じていた。
「それに父さんは怪我でもう戦えないからね」
椅子に座る父親の傍らには杖がある。少女を撫でる腕にももう強い力は入らない。質素で簡素な家は戦場で傷ついた男が退役軍人としてもらえる年金と手当を使ってやっと手に入れた住める場所だったのだ。
「じゃあ、私が一番になる」
父親に憧れてか、女の子の身で戦いに赴くという意思を見せる少女。それは世間を知らない子供の浅慮と羨望が言わせた戯言だ。
「そうか。じゃあ、その時は陛下の剣を使ってくれ」
「うんっ! 私は絶対に一番になるからね。それで陛下にもお父さんにも褒めてもらうの」
父親にはもう満足に動ける体は無い。だが、愛娘とこうして過ごせる時間が何にも代えがたい貴重なもの。そしてそれが未来永劫続いてほしいという父親の願いがそこには当然ある。それは娘も同じ。ずっと二人でいられればいいと思っていた。しかし、それは叶わない願いとなる。
父親はその後数年で永遠の眠りについた。それがいつものように、そして毎日のように繰り返される夢の最後だった―――――
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