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お転婆姫は絶大な人気を誇る一方で確実に王族という枠組みから逸脱してしまっている。これこそ、人間社会の縮図だ。多くの人が決められた枠組みの中にいて、確実にその役割を果たす。しかし僅かな人はその枠組みを超えて役割以上のことをしてしまう。それが吉と出るか凶と出るかは時代の流れ次第。
「さて、お転婆姫様はお稽古事をしっかりとしてくれているのでしょうか」
城内を歩き回って辿り着いたのはアルトリス国の第八王女の私室の前。王族らしい装飾の施された真っ白な扉は純粋無垢で高貴な印象を受ける。
「失礼します」
メイドはノックをして一声かけ、ゆっくりと扉を開いた。
「やぁーーーーーっ!」
そこでは一人の少女が汗を流していた。手に持たれたのは磨き上げられた鏡のように美しいレイピア。王女らしからぬ軽装で剣を振るう姿はまるで女騎士だ。背中まで延びる長く美しい銀髪を一つにまとめて、流れる汗すら美しいと感じさせる存在感はまさに王族の血を引く少女。それでいて驕ることは一切なく、心優しい上に常軌を逸した行動力と大胆不敵な発想は変わり者度合いで言えば他社の追随を許さないかもしれない。
「姫、お稽古事を放り出してまた剣の修行ですか?」
王女に剣など不要。王族とは多くの剣を持つ兵士達に守られる存在。剣は見栄えや周囲に見せるためにある程度扱えればいい。だがそれは男の血筋の王族だけだ。女の王族、王女にはそのような力は誰も求めてはいない。
「修行ではありません。これも立派な剣のお稽古です」
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