セントレントの陰姫

「それは痛いな。肝に銘じておくよ」
　ビネマンは入って来た時と同じ足取りで家を出て行く。何か言葉を残すわけでもなければ彼女と目を合わせるわけでもない。二人には本当に仕事上の信頼関係だけの間柄しかない。ビジネスでのつながりだけが全てだ。
「使用人・・・か」
　チラシと睨めっこをするレカンナ。何とも言えない表情と共に、しばらく沈黙の時が流れていく。だが、その過ぎ去っていく時間の中でも、彼女が家事の練習に勤しもうという様子は一切見受けられないのだった。

　数日後、チラシに書かれている日付に指定された場所となる建物の前にレカンナはいた。荘厳で神秘。そんな印象がひしひしと伝わってくる大聖堂。信仰心や敬愛の念が一切なくとも、その建物の前に立つだけで心の中の何かを試されているような感覚があった。
「やれやれ、随分と立派なものを建てたものだな」
　周囲を見渡す。大聖堂を中心に綺麗な家々が綺麗に並んでいる。まだできてそれほど時間が経っていないことがわかる白さや建物の新しい雰囲気が視界を明るく照らす。
「もう五年か？　いや、たった五年でここまで・・・」