セントレントの陰姫

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 目を閉じれば戦争の光景がまぶたの裏に映し出される。今自分が立っている場所はセントレント戦争の中心地。大聖堂は最も激しい戦いを繰り広げた中心地に建設され、聖地セントレントの象徴と死者への慰霊を兼ねている。  その都市の規模の大きさや外観の整い方は長年かけて成長してきた国家の首都と呼べるほどの大都市と遜色ない。それを終戦から僅か五年で作り上げたのだから、この場所に賭ける両国の想いの強さがうかがい知れる。さらに現実を知っている者からすれば、その変貌ぶりに別世界に来たような感覚にさえ陥る。 「まさか、戦争以外でこの場所に来るとは夢にも思わなかったな」  和平交渉が行われる終戦間際から世界が目まぐるしく変わっている。その変化に戸惑うことはあっても順応は出来そうもなかった。 「しかし、これは一体どういうつもりだ?」  チラシに書かれた使用人募集当日のスケジュール。一次審査が行われる時間は記載されているのだが、二次審査が行われる時間の記載がない。しかし一次審査の次に二次審査を行うと書いてある。三次審査以降は時間の記載があることから、どうしても疑問を抱いてしまう。 「それにしてもずいぶん人が集まっているな」  大聖堂の入り口には大勢の女性が列を為している。どう考えてもライバルとなる使用人希望者だ。神格人と呼ばれる和平の象徴となった人間の知名度は想像以上に高く、ちょっとチラシで呼びかけただけでこれだけの人が集まる。     
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