セントレントの陰姫

2/174
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ
 後退する中年男性に歩み寄る人影。手には剣が握られ、その剣の先端から絶え間なく鮮血が雫となって地面に赤い印を残していく。 「そうか。奇遇だな。私も傭兵だ」  中年男性の救済を求める言葉への返答。その声は澄んだ女性の声。 「そ、そうか。じゃ、じゃあ―――――」  期待を込めた男性。だが、その男性の僅かな期待は一秒たりとも続かない。 「なら、わかるだろう」  女性は鮮血が滴る剣を振り上げる。狙いは言うまでもなく目の前にいる中年男性だ。 「お前を殺らなきゃ、仕事が終わらない」  女性は躊躇うことなく剣を振り下ろす。その剣は寸分の狂いもなく男性を切り裂き、瞬く間に絶命に至らしめる。 「傭兵はゼロか百のどちらかだ」  そう言って剣を勢いよく振る。剣にまとわりつく血の雫が大地に線を描く。しかしそれでもまだ剣の赤さが失われることはない。それだけのことをその剣によって行われたということは想像に難くない。 「―――――帰るか」  女性は絶命した男性を一瞥することなく踵を返し、物言わぬ屍となった男の元を離れていく。その彼女が行く道は死体によって彩られたヴァージンロード。血だまりがレッドカーペットとなり、切り裂かれた死体が道端に咲く花のように、荒れ果てた荒野をただただ赤黒く彩っている。     
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!