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簡素な部屋の隅に置かれたベッドから降りた部屋の主は床に立つ。長い黒髪が印象的な長身の女性。クールな表情と引き締まった体が女性でありながらも威圧感を与えるには十分だ。美しさもある反面、どこか怖さも見受けられる。初見で彼女に声をかけられる人は相当胆の据わった人物か他者を気に介さないマイペースな人間だけだろう。
寝間着替わりの白いガウンに包まれた体が面倒くさそうに玄関へと向く。女性の一人暮らしとは思えないほど質素で簡素な部屋には、ベッド以外に必要最低限のキッチンとトイレやシャワールーム、そしてテーブルと椅子にクローゼットだけだ。可愛らしさの感じられる物は皆無で、生活臭は辛うじてあるだけ。ほとんど寝るためだけの場所という扱いでしかないのがよくわかる。
「朝っぱらから何の用だ?」
扉を開けた女性の寝惚け眼に扉の外に立っていた打音の主が声を荒げる。
「もう昼だぜ。寝惚けてんのか?」
「昨夜は遅かったからな。私の感覚ではまだ朝だ」
「お前の感覚なんざ知らねぇよ」
女性が大きなあくびをしながら部屋の中へと戻っていく。アポなしでやって来た男性客は部屋の中に足を踏み入れると、慣れた足取りで部屋の片隅に置かれているテーブルと椅子の元へ向かう。
「ビネマン、お前がよこした仕事だろうが。情報屋ならある程度詳細もわかっているだろ」
「わかってるぜ。不法に武器を売りさばいている組織の壊滅を頼んだ。そして昨夜それが行われた。そこまではいい。お前は少しド派手にやり過ぎだ」
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