セントレントの陰姫

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 ビネマンがさらに紙を取り出す。先ほど武装勢力の情報が書かれた紙とは違い、新聞の広告や街頭などで配られるチラシのような紙がレカンナに提示される。 「使用人募集の広告だ。それなりの数が来て競合するだろうが、何とか合格して一つしかない使用人の座を勝ち取ってもらいたい」 「そこまでしてその座が欲しいならアンタがいけばいい」 「俺は男だぞ? 相手は使用人に女を希望している」 「そもそも私が使用人になれるとでも思っているのか? 戦争しか知らない女だぞ」 「他にも俺のつてで何人か行く。少しでも合格者を出す確率が高い方がいい」 「護衛じゃなくて使用人は無理だろ。言っておくが私はまともに掃除洗濯料理といった家事をしたことがない。それどころか世間一般の奴らみたいに学校にも通っていない」  さすがにこの仕事には異を唱えたくなる。戦争帰りの女傭兵という立場のレカンナは仕事であればほとんど選ぶことなく請け負うことにしていた。それは彼女のもとにやってくる仕事が始めから荒事や汚れ仕事だからだ。 「その辺りは俺もいろいろ考えている。得手不得手がある人間からそれなりに家事が万能な奴らまで一通り声はかけた。だが、お前みたいなタイプの女はそうはいないない」 「思いつく限りの人間に声をかけたついでか」 「まぁな。だが、行ってくれるだけで手間賃は出す。合否に関わらず、だ」     
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