セントレントの陰姫

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 ビネマンの真剣な様子を目の当たりにしたレカンナ。そこでいくつか思い当たる事柄が頭をよぎる。 「随分報酬は良いようだな」 「ああ、大口からの依頼だ」 「理由を聞きたい。それ次第だ」  今まで普通に話を聞いていたレカンナ。彼女は足早にビネマンが彼女に向けて見せたチラシをひったくって細部にまで目を通す。 「お仕えするかもしれない相手があの『神格人』だ。ただ事じゃないのだろうな」 「・・・悪いがそれは使用人になった奴にしか言えない」 「そうか。ならこの話は無かったことにしてくれ。だいたい考えていることや依頼を出してきた大元には思い当たる節がある。知らない間に片足を突っ込まされて、ずぶずぶ底なし沼に沈んでいくのはもう御免だ」  戦争帰りのレカンナ。戦場で戦う者達がどのような扱いを受けているのか、上層部からどのように思われているのか、痛いほど思い知らされた。それでも退くことはできず、逆らうことも許されない。勝手に始めた戦争に巻き込まれ、深刻な被害が出てもやめようとはせず、命を捨てる覚悟をした者達を残して勝手に和平に踏み切る。始まりも終わりもないまま戦い続け、自分の意思は全く尊重されずに捨て駒として扱われる。そんな扱いをされることは金輪際お断りしたいと彼女は思っている。     
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