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ケンは即答した。それは心の底から思っていることだ。がむしゃらに前だけを見ていればよかったときには気付かなかった死の恐怖。そして死が間近に迫ることの本当の怖さ。それを獄中で見た夢や冷静になった頭での回想で思い知ってしまった。例え愛機が万全の状態であったとしても、ケンはもう自分が再び上空を縦横無尽に飛び回っている姿を想像できなかった。
「それよりあの話を詳しく聞かせてもらえませんか?」
ケンはそう言うと出されたコーヒーカップを手に取り、口の中にコーヒーを一口含む。とてもおいしいとはお世辞でも言えない味だったが、革命戦争中に飲み慣れた味だったということもあってか、思いの外その一口はすんなり喉の奥へと流し込まれた。
「ああ、最近発見された航空城塞の生き残りの話だな」
「はい。お願いします」
昔話も悪くはない。しかしケンが今日、ここへ足を運んだ理由は他にない。航空城塞の生き残りの話を聞くためだ。そしてその話次第で、彼は今後の人生をどう歩むべきかを決めようと考えていた。
「まず発見されたのは半年ほど前のことだ」
「ずいぶんと遡るのですね」
「あぁ、だが保護されたのは先月だ。それまで山の中を逃げ回られたらしい」
「逃げ回られた? 人が人を助ける、それを拒んでいたのですか?」
ゼフはゆっくりと一度だけ首を縦に振った。
「そもそも保護された少女はもう人ではなかった」
「少女・・・ですか。しかし人ではなかったとはどういうことですか?」
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