一、再就職先

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 そんな悲惨な街中を出所した男は歩いて行く。行くあては刑期中に面会したかつての仲間。反政府革命軍の同胞がいる場所だ。裁判結果よりも驚かされた一報もその同胞から寄せられたものだ。 「この先か」  色褪せてボロさが目立つ地図を片手に歩を進める。時折街を吹き抜ける風が砂塵を巻き上げるとともに自身の黒髪を撫でて行く。受刑中に伸びた黒い髪も出所前に自分で適当に切った。何となく戦争中と同じくらいの長さだと自分では思っているが、そうであろうとなかろうと今はそれほど気にはならない。 「あった」  地図を頼りにやってきたのは戦争記念館と書かれた看板のある建物。革命戦争終了とともに建築が行われたもので、反政府革命軍にとっては華々しい勝利を誇る建物になるはずだった。しかしその建物には落書きやゴミの投棄があり、どう考えても民衆に受け入れられているとは思えない。 「―――――俺達のしてきたことはなんだったんだろうな」  革命戦争時、貧困にあえぐ民衆の後押しを受けて戦った。支配者階級は貧困を知らずに政策を打ち出し、貧困にあえぐ民衆はそれに反発をしたが受け入れられず、最終的には反政府革命軍が発足することとなった。そして始まった革命戦争だが、結局は掲げた理想は夢見た妄想で終わってしまったという現実だけが残った。 「失礼します」     
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