ストーリーメーカーズ

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 僕が今ハマっているのはゲームでもまとめサイトでもなく、まして就活サイトでもない。だれでも作品を投稿して公開できるプラットフォームサイトに今まで読んだことのない不思議な感覚のファンタジー小説があって、毎日更新を楽しみにしている。それもこういうサイトにありがちな地の文に描写がなく会話文ばかりとか、そもそも日本語が怪しいとかそんなことは一切ない。  アマチュアにこんなにも才能のある人が埋もれているなんて。しかも文章力も知識量もついでにそれらを築き上げた読書量も相当なものだ。僕は神様に与えられた才能に加えそれを開花させるだけの努力の仕方をきちんと知っている彼を心から尊敬する。PV数はそれなりに稼げていてランキング上位にも入っているんだから、サイト側は今すぐ書籍化してプロデビューさせるべきなのに。絶対的な生徒会とかチートに主人公を助けてくれるツンデレ美少女とか、そんなテンプレが活字になってアニメ絵の資源ゴミを増やし続けるよりよほど人類にとって有意義だ。二次元に逃避しても理不尽を感じなければならないなんて世の中っていうのはつくづく理不尽だ。  この際一部上場なんて贅沢は言わないからとにかく安定した正社員になりたい、なんてのは消去法の逃げだ。常識や時間に縛られる勤め人なんかにならず「何かを表現して食っていける人」になれたらいいな、という漠然とした憧れみたいなもんが十代の頃からずっとある。だが音楽や美術について専門的な訓練や教育を受けたことはないし今から始めても手遅れだろう。実は絶対音感や百万人に一人の色彩感覚を持つとてつもない才能の持ち主だった、ということでもあればいいがそれはなさそうだ。  となると消去法で小説家、となるが。煌びやかで華やかな情景を哀しく残酷に、血なまぐさい光景を色彩に満ちた鮮やかさで描けるこれほどの天才が出版のプロの目に留まることなくアマチュアのプラットフォームに埋もれている。彼でさえそうなのだから僕が小説で生計を立てようと安易な野望を持ったところでそれは無理ゲーってもんだろう。
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