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お気に入りの菓子を少しずつ噛んで舌の上で転がして味わうように読み進めた小説の最新話は、吟遊詩人の主人公が世界を救うために臨んだ大世界歌合戦が流血の大惨事、というショッキングなシーンで次回に続いていた。ストーリーの続きが気になって仕方ない上に、創造の才と現実を生き抜く能力、どちらにも欠ける上に八方塞がりの自分に身悶えた。金の催促に返信はない。一体どうしてこうなった。ただ「平凡だけど幸せな人生」ってやつを自分の足で歩きたいだけなのに、どうして誰も手を差し伸べてくれないんだよう。
泣き出したいほどの現実に引き戻されると、ネットカフェに余分に一泊したせいで実家に帰る電車代すら残っていなかった。コインランドリーでこのままもう少し寝ていたいが喉が乾いた。管理会社に不審者通報される危険もある。
ファミレスかファーストフードに行く金も無い。いや、コンビニであと何回分の食い物が買えるか。人間は水だけで何日か生存できるそうだから、ミネラルウォーターで何日我慢できるか。いや、今の季節に公園なんか転々とすると熱中症の心配がある。だからスポーツドリンクの方がいいのかな。スポドリって水より高いよな。
借金は何となく恐いからしたくない。そもそも一文無しの就活生には「貸せない」ってなって心が折れそう。リクルートスーツのまま公園の水道で命を繋ぐ明日か明後日の自分が容易に想像図できる。人間としての尊厳すら赤信号だ。
どこかの会社の誰かがこれといって取り柄はないけど真面目で誠実な僕を今すぐ採用してくれたら、おかんが母親としての義務に立ち返ってお金さえ振り込んでくれたら、名もないホームレスとして道端で死ぬか世の中の全てにブチ切れて大量殺人者になるしかない最悪の未来は防げるってのに。人ってちょっとタイミングや歯車が噛み合わないだけで「普通の生活」ってヤツから底辺に簡単に蹴落とされてしまうもんなんだな。それにしてもおかん、どうして振り込んでくれないんだ?毒母かよっ。僕、何かしたっけ?
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