4人が本棚に入れています
本棚に追加
せめて小説の主人公にはみんなから「お前ホントはスゴい奴だったんだな」ってなって、お姫様と結ばれて幸せになって欲しいんだけど。今の僕が僕以外で唯一応援したい彼の運命も明日まではわからない。色んな辛さに押し潰されそうになりながら今度はスマホの無料ゲームに逃避しようとした時、SNSのメッセージ通知があった。例の、一泊させてくれたギャルの子だ。
溢れ返る情報とモノ、年末のイルミネーションのように寒々しくキラキラしたトレンドの洪水の東京砂漠で家族にも見放され、ミイラか腐乱死体になるしかなさそうな僕の存在を気にかけてくれる唯一の存在だ。最初はお節介が気に障ったし、恋愛対象と真逆の子ではあるんだけど。今度誘いを受けたらふらふらとズルズルな関係に陥ってしまいそう……
でも、それでもいいかな。これだけ無警戒でお人好しな子はいつか僕よりクズなヒモ男に引っかかってヒドい目に遭う。むしろこれは防波堤になってやるべきじゃないか。もしギャル子に迫られたら手っ取り早くする事はしてしまいそうなんだが、恋愛感情は一ミリも抱けそうにない。それでも僕の方がネットの体験談に登場するダメんずって奴よりは数段マシだろう。これは天啓、ってやつじゃないか。どの道どん底の僕には最低男の役がお似合いだ。
しかしギャル子がくれたメッセージはちょっと予想外のものだった。
「友だちが住んでるシェアハウスに急に空きが出て、後ガマを探してるみたい。よかったら訪ねてみて」
問い合わせ先の電話番号もメールアドレスも無しにいきなり住所が書いてあった――今日び、不動産屋が管理していてネット広告まで打っているシェアハウスもあるってのに、いきなり行ってみろ、ってこと?ずいぶんアナログな。
行ってみる、ではなく考えてみる、と返信して僕は自省した。少なくとも定職があって自活していて赤の他人の心配までできる分、住まいも人間関係も日単位で棒に振っている大卒の僕よりも高校すらちゃんと出てるかどうか怪しいギャル子の方が人間として遥かに高等に思える。感謝も尊敬もするがやっぱり恋愛対象ではない。ギャル子に幸あれ。
最初のコメントを投稿しよう!