ストーリーメーカーズ

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 コンクリートや金属といった人工物は年数を経ると、無機質さを通り越して大量死のモニュメントのような、「異界」への入り口のような、沈黙のうちにそんな不穏な空気を纏い始めるような気がする。そいつ(建物)らの絶頂期に、そこを交錯していた人々の喜怒哀楽だとか思念の欠片や残渣が床や壁や天井や硬い無機物のあちらこちらに黒ずんだ汚れや内装の剥がれとともに染みついているのかかもしれない。 「シェアハウス・マゼッパ」  現世と来世の間の門のように厳然とそびえ立つ凸凹だらけの鉄のドアには百均の木製プレートが百均のフックにぶら下げられ、手書きの飾り文字だけが不似合いに浮いていた。やっと感じられた人の温もりにほっとして笑みがこぼれたものの、ここの住民に受け入れられるかどうかという新しい不安が沸き上がる。そもそもさっき、メッセージを受け取ってから意味のない躊躇で潰した一時間弱の間に新しい入居者が決まっていたら?  ここまで来てしまって尻込みしていたらそれこそ意味がない、と自分自身を無理やり叱りつけ本は白だったであろう長方形のプラスチック板に小さな黒いスイッチを重ねただけの旧式のイヤホンを押すと、中で「ブー」という鈍いブザー音が聞こえた数秒後「はあい」とくぐもった男の声がして新たな異界へのドアが開いた。
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