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深夜、すっかり寝静まった住宅街のど真ん中、ちらちらと頼りなく点滅する防犯灯の光の下で道路に黙々とチョークで描き続けているタラバの姿が浮かび上がる。丸っこい童顔の男だとばかり思っていたが目の下のクマだけがやたら目立つのは光のせいか。本当に何かのおどろおどろしい儀式に取り憑かれていて突然広がる怪しげな闇にストン、と吸い込まれてもおかしくない――いや、ホラーは嫌いだ。
昼間だったら昭和のレトロ写真から抜け出した子どもを連想しただろう。間違えてうっかり大人になってしまって、まだ道路に線路書き続けてます、って感じの。「タラバ」というのはこいつのペンネーム兼ハンドルネームだ。一つ屋根の下に暮らしている僕たちも本名は知らない。
「できた」
タラバは履き古したチノパンの汚れを気にする風もなく立ち上がると取り巻いて見守っていた俺たち3人に向き直ってにっこり笑った。盛り上がった頬にピンクのチョークがくっついているのが夜目でもわかる。いやそれより彼の作品だ。
「すげえ」
「よく書けてる」
エイタさんが哲学者のような顔をして唸った。
「タラバ、ホントに絵が描けたんだね。見直した」
クルミが重そうなつけ睫毛で縁取ったキラキラの瞼をぱちぱちさせた。
「何だよそれ。ひでえ」
吹き出したタラバの足元に広がる、今すぐ黒魔術に使えそうな道路一杯の精緻な魔法陣。手ぶらだったタラバがいつどこでチョークを手に入れたのかも、何で寄りによって「魔法陣を描こう」なんて話になったのかも覚えてない。四人ともぐでんぐでんの酔っ払いだ。俺たちは笑いながらタラバの力作を代わる代わるスマホに収めた。
「俺ってホント、天才だよなあ。世の中は認めてくれないけどさ」
「はいはい。言ってれば」
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