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「いや、クルミ。この画力見たら納得する。そういうことかもしれん」
年長でどこか修行僧のような雰囲気の漂うエイタさんの言葉は真実味がある。人類は愚かだから流行や利潤なんてものに踊らされて、きっと今日もこうして歴史に残る文化遺産の芽を潰し続けているんだ。
「歴史に残る真の天才ってのは生前、なかなか認められないもんだよ」
僕がそう言うと、タラバ画伯はろれつの回らないマシンガントークでこう返した。
「アサヒにしちゃいいフォローだ。だけど爺さんになって死んだ後にチヤホヤされたって、面白くも何ともねえ。俺が描いたモンで後の奴らに美味しい思いさせてどうするよ?オッサンになったらそこそこの売れっ子だろうが『あの人は今?』状態だろうが同じだよ。一発屋でいいから、今すぐドカンと来てくれ。若くて元気なうちに俺がウハウハしたいわ」
タラバらしい(笑)
タラバはふらふらと、自作の魔法陣の真ん中に立って呟いた。
「よく描けてるよなあ?このまんま本当に異世界とかに行けちゃうんじゃないか」
「ちょっ、タラバ!寝込んじゃだめ!寝たら置いてくよ!?」
そのままふらふらと座り込んだタラバにクルミがミニのワンピースを翻して突進し、腕を引っ張った。細いヒールで不安定な体勢をとって、よくコケないなと思う。
「ほうら、魔法使いの仕事はおしまいだ。行くぞ」
エイタさんがタラバのもう片方――実際はタラバの重量のほとんどを担ぎ上げて立ち上がらせた。
「タラバ、しっかり。明日はバイトだろ」
「もうーー、エイタさん。現実に引き戻すようなこと言わないでくださいよぉ。俺は表現者で全知全能の創造主ですっ」
「そう。そして僕らはストーリーメーカー。人々の日常にささやかな物語をプレゼントしてスマートに去る。美学を忘れるな」
「うん」
「ほら、自分でちゃんと歩いて」
エイダさんはどうにかタラバを自力で立たせると木の人形に命を吹き込む細工師のように背中を叩いた。糸が切れたように危なっかしいタラバだがそれでもエイタさんの背中にひょこひょことついて行く。つかず離れずの距離を保ちながら僕らは住処であるシェアハウスへの道を戻る。
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