ストーリーメーカーズ

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 クルミに思わぬことで褒められた……のかな?嬉しいようなくすぐったいような気持ちもあるけど、宛先を間違えてプレゼントをもらってしまったようなきまり悪さの方が大きい。 『それを言うなら、エイタさんでしょ。あの人の語彙力はハンパない』 『エイタんは別格w』  シェアハウスで最古参で最年長のエイタさんをクルミだけが「エイタん」と呼ぶ。舌足らずな話し方をさらに鼻にかけて「タ」と「ん」の間を伸ばし気味に発音されると何故だかイライラする。文字にされたものを目にすると余計にそうだが恐ろしくて言葉に出してみたことはない。  クルミは女子高生だと言い張ったら無理やり通らなくもない外見で、普段の言動もどこか幼児性が抜けない。地方から上京して入った音大が合わなくて辞め、バイトをしながら細々とライブ活動……という生活を何年か続けているらしいから下手するとエイタさんより年上かもしれないと気づいたのは最近だ。実のところは?なんてやっぱり恐ろしくてとても聞けたものではない。 『あたしも夜バイトだし。寝るわ』 『うん』  僕らは必要最低限のルールの元、互いに干渉せず各々の生活リズムで暮らしている。お互い慣れ合いすぎて鬱陶しいのも今どきじゃ ないが、一つ屋根の下で全く挨拶もなく没交渉、というのも快適ではない。この4人の住人たちは連絡掲示板代わりのSNSグループと「ストーリーメーカー」と名づけた月に一度のイベントでその絶妙なバランスを取り合っている。    
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