ストーリーメーカーズ

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 僕がこのシェアハウスの一員になったのはつい三ヶ月ほど前のことだ。つまり、全くの新参者で同居人のことをそれほど深く知っているわけではない――もっとも、先住民どうしもさっき言ったような距離感で何年も過ごしているから他の住人に関する情報量は住人歴三ヶ月の僕と大差ない。つまりはお互いをよく知らないし気にもしないようにしている。新参者でもある種の疎外感を感じなくて済むから気が楽だ。    *  三ヶ月前。現役で要領のいい奴らならとっくに内定をもらっている時期に、第二新卒というハンデを抱えている僕の方はまだ全然先が見えていなかった。去年と同じ繰り返し……いや、「大学四年生」「来春卒業予定」って肩書きがあるだけ去年の方がましだったかもしれない。住所も帰る場所もちゃんとあったし。 「東京で就職先を決めたいから、もう少し頑張らせて」  と、地方の実家に言い訳をして三月に大学を卒業した後、その時住んでいたアパートの管理会社から契約更新の知らせが来た。自分としては今年度の就活シーズンに一、二ヶ月頑張って内定をもらい、後は地元に戻ってバイトでもしようと思っていた。だからアパートもあと何ヶ月住むかわからない。二年に一度の更新料はあまりに高くて馬鹿馬鹿しいとしか思えなかった。  それで、そのまま退去して彼女のところに転がりこんだ。彼女も最初は支えてくれる気満々だったんだけど、就活が長引くにつれて僕はどこかで負い目を感じるようになっていた。それが裏目に出てある時、共同生活上のちょっとした不満からくる喧嘩が修復不可能なとこまでエスカレートしてしまって部屋を追い出され、プチホームレス状態に追い込まれた。
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