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なんだかすごい人に、目をつけられたようだ。
辞令がおりてから、及川さんと鏑木さんは私と距離をおくようになった。
寂しかったが、あのごちゃごちゃ感がなくなり、他の女子社員からの陰口も全くなくなっていた。
『なんて、わかりやすいんだろ』
望月部長の宣言と、一週間の業務引き継ぎに伴う残業で、二人とは全く会えなくなってしまった。
とにかく、引き継ぎ事項を、書面にまとめるように言われた。
業務毎に、わかりやすいようにファイルを作成したら、三冊にもなってしまった。
課長は、
「如月がいなくなるのは、本当に痛いよ。でも、望月部長に言われたら断れないからな…まあ、確かにお前はここに埋もれていていい人材じゃないよ。頑張ってこいよな」
そう言って、私の肩を叩いた。
ようやく荷物をまとめて、五階の新しい部署に向かった。
コンコンコン。
ノックして部屋のドアを開けると、窓に向かって伸びをしていた望月部長が振り返った。
「おう、如月。予定通り片付けてきたみたいだな。優秀、優秀」
「…もう、一週間大変でしたよ。飲みにも行けなかったですよ~」
「はは、そうか、わりーな。お前なら出来ると思ったんだ。教えられる側はたまったもんじゃないだろうけどさ」
「わかりませんけど、引き継ぎの資料がファイル三冊にもなりましたよ」
「ほう…そんなになったか?でもまあ、そうしておけば、バカな女子社員でも見りゃ出来るだろ?」
「もう、どうでもいいです」
「そういえば、例の男どもはどうなった?」
「そうだ!部長のせいで全く会ってません!」
朝は早く出て、夜は遅くまで残業で、家にも持ち帰って資料作りをしたから、顔なんか合わす時がなかった。
「じゃあ、心の整理も資料の整理も出来て、丁度良かったわけだな」
『そうなるわけよねー』
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