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「な…!」
それはそれはビックリ反射で跳ね起きた。
「悪い、つい。テツの切ない顔につられて。」
「ぼ…僕はそっち側じゃないからな?」
「オレはテツならいけるけど?」
冗談じゃない。
「マジ悪かったって。怒るなよー。テツのこと好きなのは本当なんだ。
でもテツがトワコのことをそこまで…」
「嘘だろ。気づかない訳あるか。」
シュウはワルサして先生に怒られたときみたいに小声になった。
「…悪い。うん、気づいてた。ずっと。」
僕が真夏の虫たちの中で迷子になっているうちに、持ち前の要領良さで掻っ攫って行ったんだろ。
「嫉妬した。昔っからテツはトワコのことばっかり見て。」
「嫉妬?僕にか?相手間違えてるよ。」
「変だよな。でもオレの白はテツだ。テツが初恋だ。いっぱい焦がしたよ。」
目を逸らし、少し頬を赤らめたのは果たして気の所為だろうか。
でもこの状況で茶化したり嘘をついたりするとは思えず、僕は返し方にとっても困っている。
「テツまでそんな顔するな。」
シュウは、さっきの卒アルの最後のページを開いた。
写真のない、ただの白い裏表紙。
そこに一枚の絵が挟まっていた。大切な押し花を挟むように、6年生の僕が鉛筆で描いたトワコの似顔絵がそこに。
それが、僕の描いた最後の絵。
「上手く描けるもんだな。トワコ、これずっと大事にしてるよ。でも」
「でも?」
「今はオレがトワコを大事にしたい。許せ。」
シュウの告白は言葉少なだが、明日トワコの隣に立つ為にどうしても必要だったんだろうと思った。
許すもなにも、もう僕の口出すことではないし、覚悟を決めたシュウになら、と夜明け前に家を後にした。
大切な日だろ。
寝坊するなよ?
カレンダーの数字上は真夏だが、外の風は少し軽やかで、不思議なくらい静かだった。
耳の奥の蝉すらツガイを見つけ住処を変えたのだろうか。
一つの季節が終わる予感。
立秋だな。
式を挙げる教会に2人に内緒で足を運んだ。
小さなスケッチブックと鉛筆を携えて。
永遠の誓いを立てた2人が重厚な扉から出て来た。
クレヨンで塗ったような青空とマンガみたいな入道雲の下で、真っ白なドレスを着たトワコがブーケを高く高く高く空まで投げる。
僕はこの絵を近いうちに2人に届けに行こうと思う。
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