ホワイトノイズ

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さっきからシュウは蟻に虫眼鏡を当て、太陽光線を集めるのに躍起だ。 「だめだよ、シュウ!アリだって生き物なんだからー!いのちは大事にしなきゃいけないって先生も言ってたでしょ!」 太陽は真上、蝉たちはこぞって暑苦しい声を上げ、トワコの白いワンピースは眩しく映える。 「夏休みの自由研究だってば。」 「そんな自由研究なんてだめだよ!てっちゃんも何か言ってやって!」 見上げてはまた軽く空に絶望していた僕は、シュウのワルサをぼんやりとただ眺めている。 じわじわとくすぶる蟻に時の流れを重ね、夏休みが始まったばかりというのに暑い夏の終わりを早くも待ちわびていたからだ。 蟻でも何でも夢中になれるシュウが羨ましい。 でも夢中になるのと囚われるのとでは立場がまるで逆。 だからシュウは蟻に囚われていると言うのが正しくて、僕もまた、シュウと蟻の顛末に囚われている。 「ボーカンシャも犯罪なの!聞いてる?」 絵日記に色をつけたくなるような青空、マンガを描きたくなるような入道雲。 胸がすくような感動をどんなに追っかけても紙に写した途端全部嘘くさく見えて、以来僕はすっかり絵を描かなくなっていた。 「てっちゃんってば!」 「あー、聞こえてるって。ねえトワコ、アリって生きる意味あるのかな。」 「え?意味?あるでしょ、生き物なんだから、ビョードーに。」 「だってさ。ステーキのアリソースかけ、なんて食べたい?噛むと痛いし、死骸に群がるのなんてかなりグロいし。何か役に立ってんの?」 どうせトワコの答えは反射だ。いつだってあー言えばこー。そして最後には私が正しいの含みを忘れない。 でもそれがトワコのトワコたる所以で、何ひとつ変わらないことに安心して僕らは一緒に過ごすことができるんだ。
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