ホワイトノイズ

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ところが予想したキンキン声が跳ね返ってこなくて、肩透かし食らった僕はシュウの足元の蟻から視線を上げ、トワコの顔を探した。 なんだよ、そのぽかんと開けた大きな口は。 なるほど、トワコにしては珍しくさっきの問題を反芻している。 生きる意味とか役に立つとか自分の頭で考え始めるとは成長期だな。イイコイイコ。 でも僕は待ってやらない。トワコだけ先にオトナになるなんて。 だからそのぽかんな口に遠慮なく突っ込んでやるんだ。 「役に、立つ?」 「だって僕らはいつも、他人の役に立つ大人になれって言われてばかりじゃん。」 足元で道に迷っていた一匹の蟻を指に乗せた。 トワコの口に突っ込むのは華奢な腰して実は獰猛な、この蟻じゃない。 突っ込んで飲み込ませるんだ。 オトナになんてなれないよと。 オトナの理屈をパクって口ごたえするだけの、僕ら3人は「コドモ」という全く別の生き物なんだ、この蟻と同じで 「ぼ…」 「アリはちゃんと役に立ってるよ、ほらオレの自由研究に。」 あー、…バッドタイミングだ、シュウ。またシュウにオイシイところをさらわれた。 小馬鹿にされたトワコは、後ろを向いて蝋石(ろうせき)でアスファルトに白い線をぐるぐる描き始めている。 ぐるぐる もやもや 3人という集団では図らずも1人だけはみ出すことがある。 1人浮いてしまうのが誰になるのか、僕らはいつでも流動的だ。 鬼ごっこの鬼が順番にかわっていくように、これは僕らが変わらず3人でいられるためのむしろ暗黙の約束だって、少なくとも僕は大切に考えている。 今なんて、トワコが小さくふくれっ面をしたろ?だからちょこっと味方してやるつもり。 構ってほしそうだし。 「何描いてんの?」 「雲。てっちゃんも一緒に描こう?」 半ば無理やり渡された蝋石を握り、絶望したはずの空をもう一度見上げた。 真っ青なキャンバスの上で雲は雲であるために刻々と形を変える。 真夏の鮮やかな白。 白か… でもやっぱり描けないんだ。 僕の葛藤を知らないトワコは早く、と急かす。 ふとシュウと目が合って手を振りほどいた。 だってほら、汗でべたべたするだろ。 蝉はジリジリと一層賑やかになり、白いワンピースがふわりと翻る。 僕は思わず立ち上がる。 …この衝動は何? もしかしたら、僕は、僕は、…
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