ホワイトノイズ

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…僕は会社近くの公園のベンチで回想していた。 タバコを咥えライターで火をつけようとして、 カチ…カチ… (役に立たないな)と何時かの言葉が過ぎって思わず苦笑する。 そうしてオイル切れの使い捨てライターをポケットに押し込んだ。 言葉は自分に返ってくる。 小学6年生のあの夏、あの続きに何を言おうとしたのか。 焦れた蝉が1匹、軌跡を描いて飛んで行った。 目で追った先は雲ひとつない青空だ。 …白が足りない。 喧しい鳴き声が鮮やかだった筈の遠い記憶を曖昧にする。 一つだけハッキリしていた。もう10年以上経っているのに僕はあの場所から一歩も進んだ気がしない。 「少しはお役に立つとしますか」 義務感に駆られてやっとのことで重い腰を上げ、職場に戻ろうとしたら、メールの着信を知らせるバイブレーションだなんて。 バッドタイミングだ、シュウ。 専門を卒業した後さっさと美容師になったシュウとは今でもこうして時々連絡を取り合っているが、シュウにとっては客の少ない日に営業かけてるつもりかもしれなかった。 それでも不思議と悪い気はしない。 再びベンチに身を預ける。 ジジジ… 木々に紛れて新たに参戦する蝉。最近蝉の鳴き声のような耳鳴りがするようになって、どっちがどっちか区別できないことがある。 『今日あたり、店に来いよ』 そうだな、そろそろ髪を切ってもいいかもな。 『予約、7時で』 早々に返信し、アフターの予定が決まってやっと仕事する気になるなんて、僕の会社への貢献度はいかがなものでしょうかね。 足を前に一歩踏み出した。 そしたら、靴の裏でクシャッと何かが潰れた。 僕と同じ、抜け殻だ。
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