ホワイトノイズ

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髪を切るのは好きだ。全部シュウに任せておけば間違いない。 外気とは一変、快適な空調に加えてエリス・レジーナのボサノヴァが体感湿度を下げてくれる。 「たまにはスタイル冒険してみ?」 「いや、堅気の仕事なんだ。現状維持で。」 目の前の鏡に映るシュウとのツーショットは容赦してくれない。 つい比較する自分が居た堪れなくて目を伏せ、結果いつも閉じてしまう。 でも目を閉じさえすればシュウの手は誰より何より気持ちがいい。 結局は髪を切ることより、こうしてシュウに頭を触ってもらうのが好きなのかもしれない。 「ニコちゃん、シャンプー台にご案内して」 「はーい、こちらになりまーす」 下っ端のシュウよりぐっと下っ端の新顔の女の子に連れられ促されるままに仰向けになると、薄いガーゼで目隠し。 「シュウさんとお友達なんですかー?」 「あー、まあ」 「へー、いつからですかー?」 「覚えてないくらい小さい時から」 「えー、すごーい!それって幼馴染ってことじゃないですかー。だったらシュウさんの結婚式でスピーチとか」 見習いちゃんはこれだから困る。張り切る気持ちはまあ分かるけど、コミュニケーションの本質は根掘り葉掘りとは違うって、誰か教えとけよな。 「お湯の温度大丈夫ですかー」 「あー、まあ」 ニコちゃんと呼ばれた女の子の指が頭皮を這う。 少しは期待したが惜しいな。実に絶妙にポイントを外すからどうにももどかしい。 だからあれもこれもシュウがやってくれればいいんだ。 それはそうと振り出しの質問責めに合わないように話題を提案しよう。 「夏って何色だと思う?」 結婚式の返事は欠席と書いてるから。 「えー?クイズみたい、夏の色ですかー?考えたことなかったな、そうですねー、…赤?」 「なんで?」 「暑そうなイメージだからかな、子どもの描くお日様って赤ですよね、赤派と、あと黄色派が少しいて」 そうそう。本物は赤でも黄色でもない太陽の色を、今時の子どもたちもそう描くのかな。 「私も赤く塗ってたなー」 ふとシャワーの水音が止まった。シャンプーは終わり、僕にとっての夏色は?とは聞かれず仕舞いだった。 「シュウさんお願いしまーす」
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